コンサル先の50名規模のスタートアップでSaaS棚卸しを実施したとき、「自動更新で1年分余計に払っていた」SaaSが3件見つかった。合計で年間約42万円の垂れ流し。原因は単純で、契約更新日を誰も一元管理していなかった。
50名規模の会社が契約しているSaaSは、だいたい20〜40本ある。更新日はサービスごとにバラバラで、導入した担当者も時期も違う。ある調査では企業の64%が意図しないSaaS自動更新を経験していると報告されている。Googleスプレッドシート1枚とカレンダーアラートだけで、この問題は止められる。初回の作業は約3時間、月次メンテナンスは15分。年間管理コストは時給3,000円換算で約18,000円だ。
「自動更新」が静かにコストを垂れ流す構造
SaaSの年間契約には、ほぼ例外なく自動更新条項がついている。契約満了の30日前(サービスによっては60日前)までに解約通知を出さなければ、翌年分が自動課金される。途中解約しても日割り返金はないケースがほとんどだ。
年間契約のSaaSが10本あれば、解約判断のタイミングが年に10回訪れる。Slackは4月更新、Zoomは11月更新、Notionは翌年1月。このバラバラの期限を頭で覚えている管理者はまずいない。
コンサル先のIT担当者に「各SaaSの契約更新日を教えてください」と聞いたら、10本中3本しか即答できなかった。残り7本は経理のクレカ明細を遡って初めて判明した。放置すると年に1〜3件の解約し忘れが定常的に発生し、1件10万〜20万円なら3件で年間30万〜60万円の無駄になる。
管理シートの設計と初回の洗い出し手順
結論。管理シートに必要な列は8つだけだ。
| 列 | 内容 | 入力例 |
|---|---|---|
| A: SaaS名 | サービス名 | Slack |
| B: プラン | 契約プラン | Pro |
| C: 年額 | 税込金額 | 120,000円 |
| D: ライセンス数 | 契約人数 | 50 |
| E: 契約更新日 | 次回更新日 | 2027-04-15 |
| F: 解約通知期限 | =E列-通知日数 | 2027-03-16 |
| G: 管理者 | 社内の担当者名 | 田中 |
| H: 判定 | 継続/検討中/解約予定 | 継続 |
F列「解約通知期限」がこのシートの肝だ。Googleスプレッドシートなら=E2-30で自動計算できる。いつまでに判断しなければ自動更新されるかが、一覧で見える。
初回の洗い出しは4ステップで完了する。
- 経理のクレジットカード明細と請求書から、支払い中のSaaSを全件リストアップする(30分)
- Google Workspace管理コンソールでOAuth連携済みアプリを確認し、明細に載っていないSaaSを補完する(15分)
- 各SaaSの管理画面にログインし、契約更新日と事前通知期間を確認してE〜F列を埋める(1〜2時間)
- 全社Slackで「個人のクレジットカードで契約しているSaaSがあれば報告してください」と周知する(5分)
ステップ4の全社周知で、IT部門が把握していなかったSaaSが12本見つかったケースもある。うちChatGPTの有料プランを個人課金していた社員が5名いた。週3回以上ログインしていたのはそのうち2名だけで、残りは無料プランに切り替えて年間約15万円を削減した。シャドーITの発見にもつながる作業だ。
Googleカレンダーの30日前アラートで「見に行かなくなる」を防ぐ
シートを作っただけでは、3ヶ月後には誰も見なくなる。前職で800名規模のIT推進部にいたとき、同じ失敗を目にしている。運用を回す仕組みはGoogleカレンダーのアラートで足りる。
- Googleカレンダーに「SaaS更新管理」という専用カレンダーを新規作成する
- 各SaaSの解約通知期限(F列の日付)を終日イベントとして登録する
- 各イベントに「30日前」と「7日前」の通知を設定する
- カレンダーをIT担当者と経理担当に共有する
30日前に通知が届けば、利用率の確認とプラン見直しに十分な時間が取れる。7日前はフェイルセーフだ。
前職で800名規模のZoomライセンスを縮小したとき、退職者アカウントに紐づくクラウド録画データの移行確認を見落としたことがある。録画が30日後に完全削除され、クライアント向けプレゼン資料を失った部署が出た。カレンダーイベントの備考欄に「解約・縮小時のチェック項目」まで書いておけば防げた事故だ。更新日だけでなく、解約時の確認作業もカレンダーに紐づけておくのが安全策になる。
四半期レビューで「続ける・やめる・下げる」を仕分ける
いつ判断するかはアラートで管理できた。次は「どう判断するか」だ。
四半期に1回、次の3ヶ月間に更新を迎えるSaaSをシートから抽出し、3つの軸で仕分ける。
利用率40%を下回っていないか。管理コンソールのログイン頻度やアクティブユーザー数を確認する。前職でNotionのPlusプランを800名に一括展開したが、半年後のアクティブ率は40%にとどまり、FreeとPlusの混在運用に切り替えて月額を6割カットした経験がある。利用率40%は「全社展開の前提が崩れている」ラインと判断すべきだ。
他のSaaSと機能が重複していないか。SlackとChatworkの併用、ZoomとTeamsの併用のように、同じ用途のSaaSが複数走っていないか。コンサル先ではChatworkを解約してSlackに一本化し、年間約55万円のライセンス費を削減した実績がある。
プランは適正か。全員にBusinessプランを付与しているが、上位機能を実際に使っているのは一部だけという状況はよくある。必要な社員だけ上位プラン、残りは下位プランに切り替える。ライセンスは使う人だけに買う。これが鉄則だ。
専用のSaaS管理ツールは50名規模で必要か
結論から言うと、不要だ。
Admina by Money ForwardやジョーシスなどのSaaS管理ツールは、SSO連携による自動検出やライセンスの自動最適化機能を備えている。200名超の組織なら費用対効果が合う。だが年間60万〜180万円のツール費用は、50名規模のSaaS支出総額に対して過剰になりやすい。
スプレッドシート+Googleカレンダー運用の年間コストは、時給3,000円換算で約18,000円(初回3時間+月15分×12ヶ月)。管理者1名で回る。SaaSの契約本数が50本を超えるか、組織規模が200名を超えたら、管理ツールの導入を検討するタイミングだ。
数字は2026年7月時点のもの。各ツールのプラン改定があれば再計算が必要になる。
FAQ
月額契約のSaaSもシートで管理すべきか
管理する価値はある。月額なら解約し忘れの損害は1ヶ月分で済むが、10本以上あると合計で月数万円になる。ただし優先度は年額契約が先だ。年額の管理が回ってから月額を追加するのが合理的な順序になる。
個人のクレジットカードで契約しているSaaSはどう発見するか
全社チャットでの周知に加え、Google Workspace管理コンソールのセキュリティ設定からOAuth連携済みアプリを確認すると、IT部門が認識していないSaaSが見つかる。コンサル先では40本以上発見された実績がある。
SaaS管理の専任担当者は必要か
50名規模なら不要。IT担当者(兼任可)が四半期に1回・約1時間のレビューと、月次15分のメンテナンスを行えば回る。年間の総工数は約7時間だ。
解約通知の「30日前」ルールはどのSaaSでも共通か
異なる。Slackは契約更新の30日前、Notionは更新日当日まで解約可能など、サービスごとに通知期間が違う。各SaaSの利用規約または管理画面の「プランと請求」セクションで確認し、F列に正確な期限を入力すること。
参考文献
- SaaS棚卸しの進め方|ライセンス費用と管理体制を最適化する手順 — Admina by Money Forward
- 【2026年版】契約の自動更新とは?条項の記載項目から管理システムまで実務解説 — OPTiM
- SaaS棚卸しのやり方|情シスが実践する手順・チェックリスト・ツール活用の完全ガイド — ジョーシス, 2026年4月
- 5 Alternatives to Excel for Managing SaaS Contracts & Renewals in 2026 — Torii






