去年、45名のスタートアップでSaaS棚卸しを手伝ったときのこと。経理のクレカ明細を開いたら、SlackとChatworkの請求が同じ月に並んでいた。ライセンスの二重課金だけで年間約55万円。「Slackで見つからない情報をChatworkで検索し直す」時間を時給換算すると、年間108万円相当の機会費用が上乗せされていた。合計163万円。この数字を見て答えは決まった。
チャットツールの併用は1本化するしかない。この会社では実際にChatworkを解約してSlackに一本化し、管理者1名・工数10時間・2週間で移行を完了させた。
チャットツール併用で発生する「見えないコスト」の試算
2026年7月時点の料金で、50名チームがSlack ProとChatworkビジネスプランを併用した場合のコストを出す。
| 費目 | 単価(年払い) | 50名の月額 | 年額 |
|---|---|---|---|
| Chatwork ビジネスプラン | 700円/人 | 35,000円 | 420,000円 |
| Slack Pro | 925円/人 | 46,250円 | 555,000円 |
| 情報検索の二重コスト(※) | ― | 約100,000円 | 約1,200,000円 |
| 併用の総コスト | ― | 約181,250円 | 約2,175,000円 |
※ 社員1人あたり週15分の検索重複を時給2,000円で換算。筆者がコンサル先45名の実測値をもとに算出した目安。
Chatworkを解約してSlack1本にした場合、ライセンス費42万円+機会費用120万円で、年間約162万円が浮く計算になる。50名規模のスタートアップにとっては、エンジニア1名分の採用コストに匹敵する額だ。
Slack vs Chatworkの機能差を「移行の壁になるか」で判定する
「Chatworkのタスク機能が消えると困る」。コンサル先でも営業チームから真っ先に出た声がこれだった。
実際に機能を並べて、移行判断に影響するポイントだけを洗い出した。
| 機能 | Chatwork | Slack Pro | 移行時の対処 |
|---|---|---|---|
| タスク管理 | チャット内タスク機能 | 標準なし | Notion・Asanaで代替 |
| ストレージ | 5GB/人 | 10GB/人 | Slackの方が容量大 |
| ビデオ通話 | 14人まで | ハドル50人まで | Slackの方が上限大 |
| ゲストアクセス | あり | Slackコネクト | 取引先がSlack未導入だと要調整 |
| 外部連携 | 約20種 | 2,600種以上 | 自動化の拡張性はSlack圧勝 |
唯一の壁はChatwork固有の「チャット内タスク管理」だが、50名規模でタスク管理をチャットツールに依存すること自体がリスクだ。NotionやGoogle Tasksに切り出す方が合理的と判断できる。
2週間・管理者工数10時間で完了させた移行手順
実際にコンサル先で回したプランがこれだ。管理者1名で回せる工数に収めた。
Week 1:準備と全社アナウンス
- Day 1〜2:移行先のSlackワークスペースを作成し、チャンネル構成を設計する。接頭辞ルール(team- / proj- / info- / misc- の4種)を決めておくと、後からチャンネルが増殖するのを防げる
- Day 3:Chatworkの直近3ヶ月分のピン留めメッセージとファイルリンクだけをエクスポートする。過去ログの全量移行は不要だ(理由は次のセクションで詳しく書く)
- Day 4〜5:全社アナウンスで切り替え日を明示する。「〇月〇日以降、Chatworkへの新規投稿は禁止」と期限を切ることが最も重要なポイントになる
Week 2:切り替えと旧ツール凍結
- Day 6〜8:新規投稿をSlackに一本化。Chatwork側への投稿を停止する
- Day 9〜10:Chatworkを読み取り専用化し、30日間は閲覧のみ可能にする。旧ツールを即座に閉じると「過去のやりとりが消える」不安が出るが、30日間の猶予で大半が収まった
- Day 10:Chatwork有料プランの解約手続き。Chatwork公式サイトの管理画面から解約申請を出す。次回更新日の確認を忘れないこと
期限を切らないと併用期間が永遠に延びる。以前、別の会社(800名規模)でツール統一を担当したときも同じ轍を踏んでいる。「移行期間」をあいまいに設けた部門は、3ヶ月たっても両方のツールに投稿し続けていた。
過去ログの全量移行が不要と言い切れる根拠
移行プロジェクトが長期化する最大の原因は「過去のチャット履歴を全部持っていきたい」という要求だ。
コンサル先45名の実績で言うと、移行後に実際に参照されたのは直近3ヶ月のピン留めメッセージとファイルリンクだけだった。半年以上前のチャットログを検索した社員はゼロ。旧ツールを30日間読み取り専用で残す運用にしておけば、「あの案件のやりとりを見たい」と言われたときも対応できる。
30日を過ぎた時点でChatworkを完全にクローズしても、トラブルは1件も発生しなかった。全量移行にかける時間とコストがあるなら、その工数で新ツールの運用ルール(チャンネル命名規則、投稿のガイドライン)を固める方がROIは高い。
併用を残すべき例外ケースと規模別の判断基準
取引先がChatworkしか使っていない場合に限り、社外連絡用にChatwork無料プランだけ残す選択肢はある。ただし「社内はSlack、社外はChatwork無料プラン」と線引きを厳密にしないと、結局情報が分散する。筆者の経験では、取引先の8割はSlackコネクトまたはメールで連絡手段を切り替えてもらえた。残り2割のためだけに有料プランを維持するのはコスト面で正当化できない。
規模別に判断すると、移行の難易度と期間はこう変わる。
| チーム規模 | 移行期間の目安 | 管理者工数 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 30名以下 | 1〜2週間 | 5〜10時間 | 全社一斉切り替えが可能 |
| 30〜100名 | 2〜4週間 | 10〜20時間 | チーム単位の段階移行を推奨 |
| 100名以上 | 1〜2ヶ月 | 40時間超 | 部門別のパイロット運用が必要 |
50名前後のスタートアップなら2週間で十分に終わる。移行期間を延ばすほど二重コストの垂れ流し期間が長くなる点は、意思決定者に数字で伝えるべきだ。
FAQ
Chatworkの無料プランだけ残して社外連絡に使うのは現実的?
社内の全投稿をSlackに集約できるなら、社外連絡用にChatwork無料プランを残すのは選択肢になる。ただし無料プランはメッセージ閲覧が直近40日分に制限される(2026年7月時点)。長期プロジェクトの連絡には向かないため、取引先にSlackコネクトでの接続を先に打診する方が合理的だ。
移行期間中に情報が二重投稿にならない工夫は?
全社アナウンスで「〇月〇日以降、Chatworkへの新規投稿は禁止」と1回だけ明確に宣言する。あいまいな「移行期間」を設けると、両方に投稿する人が出て分散が悪化する。Day 6以降はChatwork側の投稿通知を管理者がモニタリングして個別に声をかけるのが効果的だった。
Slack以外(Microsoft Teamsなど)に統一する場合も同じ手順で進められる?
Week 1で移行先の構成設計と全社告知、Week 2で切り替えと旧ツール凍結という2週間フレームワークはツールを問わず使える。Teamsの場合はMicrosoft 365のライセンス体系を先に確認する必要がある。ツール選定より「期限を切って一気に切り替える」原則の方が重要だ。
過去ログのエクスポート方法は?
Chatworkのビジネスプラン以上であれば、管理者画面からCSV形式でチャットログをエクスポートできる。全量エクスポートには数時間かかる場合があるが、筆者の推奨は全量ではなくピン留めメッセージとファイルリンクだけをスプレッドシートに転記する方法だ。実作業30分で済む。
参考文献
- Chatwork 料金プラン ― Chatwork公式サイト(2026年7月確認)
- Slack の料金プラン ― Slack公式サイト(2026年7月確認)
- Slack のプランと機能 ― Slackヘルプセンター
- Chatwork チャットのエクスポート ― Chatworkヘルプ






