知人のお父さんが急に倒れて長期入院になったとき、家族が困ったのはGoogleドライブだったという話を聞いた。数年分の写真と、重要な書類がある。パスワードはわからない。開けられない。データは「ある」のに「誰も使えない」状態で、家族はどう動けばいいかわからなかったそうだ。
Googleアカウントも同じ問題を抱えている。写真、ドライブのファイル、Gmailのメール。あなたが突然アカウントにアクセスできなくなったとき、家族はどうすればいいか。法的手続きで開示を求めるルートはある。ただし時間がかかるし、確実でもない。
Googleはこの問題に対して「不活動アカウントマネージャー」という正式機能を用意している。事前に信頼できる連絡先を指定しておけば、アカウントが一定期間使用されなかった場合に、その人にデータのダウンロードを許可できる仕組みだ。設定している人は少ない。ただし3分で完了する設定でもある。
不活動アカウントマネージャーとは何か
結論から言う。不活動アカウントマネージャーは、Googleアカウントが一定期間使用されなかった場合の動作を事前に設定しておく機能だ。2013年にGoogleが導入し、2023年5月の非アクティブポリシー改定(2年放置で削除対象)とあわせて機能が強化された。
設定できる内容は2種類ある。
- 信頼できる連絡先へのデータ共有: 最大10人の連絡先を指定し、どのGoogleサービスのデータをダウンロード可能にするかを選択できる。Google Drive、Gmail、Googleフォト、YouTubeなど15種類のサービスから選択可能(2026年7月時点)
- アカウントの自動削除: 非アクティブ状態が続いた後、アカウントを自動削除する設定(任意)
よく混同されるのが「2年放置で削除される」ルールとの違いだ。あちらはGoogleが2023年5月に設定した空きアカウント整理ポリシーで、ユーザー側に設定権はない。不活動アカウントマネージャーは別物だ。ユーザーが能動的に「誰に何を渡すか」を事前に決める機能だと理解していい。
なお、連絡先として指定した相手は、非アクティブ期間が終了するまでデータを見ることができない。生きている間は設定した連絡先であってもアカウントへのアクセスは不可能だ。
設定手順:5ステップで完了する
設定はGoogleアカウントの管理画面から行う。myaccount.google.com/inactive がダイレクトリンクだ。またはGoogleアカウント → 「データとプライバシー」→「アカウントが使用されなかった場合の対応を設定」からもアクセスできる。
検証はChrome 127.0 / macOS 15.2環境、2026年7月時点の画面で実施している。
ステップ1: 非アクティブ期間を設定する
まず「アカウントを何ヶ月間使用しなかった場合に動作を開始するか」を選ぶ。選択肢は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月の4つだ。
ここは慎重に選ぶ必要がある。医療的な事情で長期入院するケースを考えると、3ヶ月は短すぎる可能性がある。逆に18ヶ月では家族が気づくまでに時間がかかりすぎる。12ヶ月が現実的な標準設定だ。
非アクティブの判定基準は「Googleアカウントへのサインインがない状態」だ。Gmailの受信だけでは非アクティブのカウントが止まらない点に注意が必要だ。実際にログインしていることが条件になる。
ステップ2: 事前通知の設定を確認する
非アクティブ期間が終わる前に、Googleは登録したメールアドレスと電話番号に通知を送る。この通知を受け取ったらログインするだけで非アクティブカウントがリセットされる。信頼できる連絡先への通知が届く前に自分で対処できる仕組みだ。
電話番号の登録が古いまま放置されているアカウントでは、SMSが届かないケースがある。設定画面の電話番号を最新の状態に更新しておこう。
ステップ3: 信頼できる連絡先を追加する
次に引き継ぎ先となる人物を登録する。入力するのは相手のメールアドレスだ。相手がGoogleアカウントを持っていなくても登録自体は可能だが、実際にデータをダウンロードするにはGoogleアカウントが必要になる。家族がGoogleアカウントを持っているかどうか、設定の前に確認しておこう。
連絡先を追加すると、相手のメールアドレスに「あなたが信頼できる連絡先に設定されました」という確認メールが送られる。相手が確認を完了しなくても設定は有効だが、相手が内容を把握していないと実際に必要になったときに混乱する。事前に「こういう設定をした、こうすれば使えるようになる」と伝えておく方が確実だ。
筆者も独立後、妻のGoogleアカウントの設定を確認する機会があり、この不活動アカウントマネージャーが未設定のままだったことに気づいた。Googleドライブには数年分の写真や重要ファイルが蓄積されていた。設定後、妻にも手順を説明しておいた。
ステップ4: 共有するデータを選択する
信頼できる連絡先に引き渡すGoogleサービスのデータを選ぶ。対象はGoogle Drive、Gmail、Googleフォト、YouTube、Googleカレンダーなどだ。チェックを外したサービスのデータは連絡先からはアクセスできない。
仕様上の重要な制約がある。Google Payの決済情報やサードパーティアプリへのアクセス権は引き継ぎ不可だ。また、引き渡されるのはデータのダウンロード権限であり、連絡先がそのままアカウントを使い続けられるわけではない。この点は仕様上の制約として知っておきたい。
ステップ5: アカウント削除の設定(任意)
最後に、データの引き渡し完了後にアカウントを自動削除するかどうかを設定できる。削除を設定する場合、連絡先へのデータ送信から3ヶ月後に削除が実行される。
この設定は慎重に扱う。一度削除されたアカウントは基本的に復元できない。特別な理由がない限り、削除設定はオフのままにしておく方が安全だ。
引き継ぎが動くとき、実際に何が起きるか
非アクティブ期間が終了したとき、Googleは信頼できる連絡先に通知を送る。通知には「〇〇さんのアカウントが非アクティブ状態になりました。許可されたデータをダウンロードできます」という内容が含まれる。
連絡先はその通知から専用URLにアクセスし、Google Takeoutと同様の形式でデータをダウンロードできる。ダウンロード可能な期間は3ヶ月だ。期間内にダウンロードしなかった場合、再度ダウンロードするにはGoogleへの個別対応が必要になる。
設定するだけで終わりにしない方がいい。不活動アカウントマネージャーは「データを渡せる状態にした」に過ぎない。信頼できる連絡先に指定した人が「そんな設定あったの?」「どこにアクセスすればいいの?」という状態では機能しない。「こういう設定をしてある、いざというときはここからダウンロードできる」と事前に話しておくことが、設定そのものと同じくらい重要だ。
定期確認の組み込み方
連絡先として登録した人のメールアドレスが変わった場合、設定の更新が必要だ。毎年1回、Googleセキュリティ診断を実施するタイミングで不活動アカウントマネージャーの設定も確認するルーチンを組み込んでおくのが現実的だ。
確認すべき項目は3点だ。
- 連絡先のメールアドレスが現在も有効か
- 登録した電話番号・回復用メールアドレスが最新か
- 共有対象として設定したサービスが現在も適切か(転職等でDriveのファイル構成が変わった場合など)
設定画面は myaccount.google.com/inactive から直接アクセスできる。
FAQ
不活動アカウントマネージャーを設定した後、いつでもキャンセルできますか?
できる。設定画面から連絡先の削除や非アクティブ期間の変更はいつでも可能だ。設定を完全にオフにして連絡先も削除設定も何もしない状態に戻すこともできる。変更は即時反映される。
連絡先として登録した人がGoogleアカウントを持っていない場合はどうなりますか?
連絡先の登録自体は可能だが、実際にデータをダウンロードするにはGoogleアカウントが必要だ。引き継ぎが必要になった際に相手がアカウントを作成する手順を踏む必要が生じる。設定の段階で相手がGoogleアカウントを持っているかどうかを確認しておくと確実だ。
「Googleアカウントが2年で削除される」という話と不活動アカウントマネージャーは関係ありますか?
別の仕組みだ。「2年放置で削除」はGoogleが2023年5月に設定した空きアカウント整理ポリシーで、ユーザー側に設定権はない。不活動アカウントマネージャーはユーザーが能動的に設定する引き継ぎ機能であり、2年放置ルールとは独立して動作する。ただし不活動アカウントマネージャーで削除設定をしない場合でも、Googleのポリシー側で2年経過後に削除が実行される可能性もある点は頭に入れておきたい。
引き継ぎ先の人は、私が生きている間に私のデータを見られますか?
見られない。不活動アカウントマネージャーが動作するのは、設定した非アクティブ期間が終了した後だけだ。それ以前は信頼できる連絡先として登録されていても、相手からはアカウントにアクセスできない。
引き継げないデータはありますか?
ある。Google Payの決済・残高情報、Google Oneのサブスクリプション情報、Google Playでの購入履歴、サードパーティアプリへのアクセス権は引き渡しできない。また連絡先が受け取れるのはデータのダウンロード権限であり、アカウント自体(メールアドレスや各サービスの継続利用権限)は引き継ぎできない。
参考文献
- 不活動アカウントマネージャー — Googleアカウント ヘルプ — Google, 2026年
- An update on inactive Google Accounts and our policies — Google Blog, 2023年5月
- Google Takeout — データのエクスポート — Google, 2026年






