併用の「見えないコスト」はライセンス費の2倍になる

コンサル先のスタートアップ(従業員45名)で、SlackのProプランとChatworkのBusinessプランが同時に走っていた。社内連絡はSlack、顧客やりとりはChatwork。よくある構成だ。

ライセンスの二重払いだけで年間55万円超。だが、SaaS棚卸しで本当に目立ったのは「情報検索の二度手間」の方だった。過去のやり取りを探すたびに両方のツールを開いて検索する。1人あたり週15分、45名で換算すると年間108万円相当の機会費用が発生していた(時給2,000円ベース)。

合計163万円。一方、統一移行にかかった工数は管理者1名×約10時間、時給3,000円換算で3万円だ。ROIで見ると初月で回収できる計算になる。

Slack ProとChatwork Businessの料金・機能差

統一先の判断は、単価ではなくツール連携の密度で決まる。2026年6月時点の料金と主要な機能差を並べた。

項目Slack Pro(年払い)Chatwork Business(年払い)
月額/ユーザー(税抜)925円700円
50名×12ヶ月の年間コスト(税抜)555,000円420,000円
メッセージ履歴無制限無制限
外部アプリ連携2,600以上限定的
ワークフロー自動化ワークフロービルダーなし
ゲストアクセスチャンネル単位で招待可組織外コンタクトとして追加

単価だけならChatworkの方が安い。ただし、Google Workspace・Notion・Zoom・Zapierとの連携を日常的に使っているチームでは、Slackに統一した方がトータルの業務コストは下がる。筆者のコンサル先でSlackを選んだ最大の理由も、Notion×Slack連携でタスク更新をSlackに自動配信し、朝の進捗報告チャットを丸ごと廃止できた点だった。

逆に、社外取引先とのやり取りがChatwork中心で、外部ツール連携をほぼ使わない組織なら、Chatworkへの統一がコスト面で合理的だ。

管理者1名・2週間で完了する統一移行プラン

結論から言うと、統一移行は2週間で終わる。最大のポイントは「切り替え日を日付で全社に宣言すること」と「過去ログの全量移行をしないこと」だ。

Week 1: 準備と全社アナウンス

  1. 移行先のワークスペースを確認する(既存のものがあればそのまま使う)
  2. 旧ツール側のチャンネル一覧をエクスポートし、移行先に必要なチャンネルだけ作成する
  3. 直近3ヶ月分のピン留めメッセージとファイルリンクを移行先に固定投稿する
  4. 全社アナウンスを出す。「7月7日から新規投稿は○○に一本化する。旧ツールは読み取り専用で30日間残す」と日付で期限を明示する

Week 2: 切り替えと旧ツールの封鎖

  1. 切り替え日以降、新規投稿を移行先に一本化する
  2. 旧ツールの投稿権限を管理画面で制限し、読み取り専用にする
  3. 30日間の読み取り専用期間を設ける(過去ログ閲覧用)
  4. 読み取り専用期間が終了したら有料プランを解約する

「来週あたりから移行」のような曖昧な期限だと、併用期間が際限なく延びる。筆者のコンサル先でも、具体的な日付を全社Slackに投稿した翌日から移行ペースが一気に上がった。期限を日付で切る。管理者にできる最もコストのかからない施策がこれだ。

過去ログの全量移行は不要

移行プロジェクトが止まる原因の大半は、過去ログの完璧な移行にこだわりすぎることにある。

全量移行は要らない。筆者が複数のコンサル先で観測した限り、移行後に実際に参照されたのは直近3ヶ月分のピン留めメッセージとファイルリンクだけだった。それ以前のログが検索される場面はほぼ存在しない。

念のため、Slackのエクスポート機能(ワークスペースの管理画面 > 設定と管理 > データのエクスポート)でJSON形式のバックアップを取り、Google DriveかSharePointに保管しておけば安心だ。ChatworkのエクスポートはBusinessプラン以上で利用可能。解約する前にエクスポートしておくことだけ忘れなければ、ログ消失のリスクはなくなる。

旧ツールを30日間読み取り専用で残す運用にすれば、「過去のやり取りが消えるのでは」という社内の不安も解消できる。完璧な移行より速い移行の方が、チームにとっての総コストは低い。

自社の併用コストを5分で概算する

統一すべきかの判断材料は、併用コストの概算だけで十分だ。計算は2ステップで終わる。

  • ライセンス費: 解約予定ツールの月額単価 × ユーザー数 × 12ヶ月
  • 機会費用: 1人あたりの週あたり二重検索時間(分)÷ 60 × 業務時給 × ユーザー数 × 52週

50名でChatwork Business(年払い月700円)を解約する場合、ライセンス費だけで年間42万円の削減になる。二重検索が1人週10分だとしても、時給2,000円換算で年間約87万円の機会費用が加わる。合計129万円。

移行工数10時間(管理者の時給3,000円で3万円)と比べれば、統一しない理由を探す方が難しいと判断できる。併用を続けるなら、そのコストを「払い続ける価値がある」と説明できる根拠を持っておくべきだ。

FAQ

併用をやめると社外の取引先との連絡はどうなる?

取引先がChatworkを使っている場合、全員の切り替えを求める必要はない。担当者1〜2名だけChatworkの無料プラン(フリープラン)で残し、社内連絡はSlackに統一するハイブリッド運用が現実的だ。Businessプランの全社契約を解約するだけで、ライセンス費の大半は削減できる。

Slackの無料プランに切り替えて併用を続ける手もある?

Slackの無料プラン(Freeプラン)はメッセージ履歴が90日間に制限される。過去のやり取りを検索できなくなるため、業務利用には適さない。併用を残すなら有料プランの維持が必要で、コスト削減にはつながらない。

移行期間中はどちらのツールに投稿すればいい?

Week 1(準備期間)は両方に投稿して問題ない。Week 2の切り替え日以降は、新規投稿を移行先のみに一本化する。旧ツールに投稿が残ると「まだ併用していい」という誤解につながるため、切り替え日の全社アナウンスで明確に区切ることが重要だ。

Chatworkのエクスポートデータは後から読めるのか?

ChatworkのエクスポートデータはCSV形式で出力される。スプレッドシートやテキストエディタで閲覧は可能だ。ただし、チャット形式のUIでは表示されないため、「過去ログを頻繁に読み返す」用途には向かない。あくまで万一のアーカイブとして保管する前提で考える方が合理的だ。

参考文献