PCショップに勤めていた8年間で、「電源ボタンを押しても何も起きない」という持ち込みは数えきれないほど対応した。お客さんはだいたい「壊れた、データ全部消えた」とパニック状態で来店するんですが、実際にカウンターで電源ケーブルを差し直したらあっさり起動した、というケースが結構あったんですよね。

もちろん電源ユニットやマザーボードが本当に逝っていることもある。ただ、いきなりパーツ交換に走る前に外側から順番にチェックしていけば、原因の8割くらいは自分で切り分けられます。自作歴15年の自分でも、焦ると基本的なところを見落とすことがあるので(この話は後で書きます)、落ち着いて1つずつ潰していくのが結局は近道です。

「電源が入らない」にも2パターンある

まず確認してほしいのが、電源ボタンを押したときの反応。「電源が入らない」と言っても、実はまったく違う2つの症状が混在していることが多いんです。

  • 完全無反応:ファンも回らない、LEDも光らない、うんともすんとも言わない
  • 電源は入るが画面が映らない:ファンは回る・LEDは光る、でもモニターに何も表示されない

完全無反応なら電源周り(ケーブル、電源ユニット、マザーボード)が原因としてほぼ確定。ファンが回っているのに画面が映らない場合はGPU・メモリ・モニター側の問題が多いです。

自分の経験では、「画面が映らない」を「電源が入らない」と表現して持ち込む人が半分以上いた。対処の出発点が変わるので、まずここをはっきりさせてください。

ケースを開ける前に外側からチェック

PC内部を開ける前に、外側だけで確認できることが意外と多い。PCショップ時代も、まず外側チェックから始めるのがルーティンだった。

電源ケーブルとコンセント

笑い話みたいですが、電源ケーブルが抜けかけていたり、電源タップのスイッチがオフになっていたりするケースは本当に多い。別のコンセントに差し替えて試すだけで解決することもあります。ケーブル自体の断線も年に数回は見たので、予備のケーブルがあれば交換して確認するのが早いです。

電源ユニット背面のスイッチ

デスクトップPCの電源ユニットには、背面に「○」と「I」が書かれたロッカースイッチがついている。掃除や配線整理のときに知らずに触ってオフにしていた、というのは自作erでもやりがちなミスなんですよね。「I」側(オン)になっているか確認してください。

モニター側の確認

「ファンは回るけど画面が映らない」パターンで、真っ先に疑うべきはモニター側だったりする。自分も工房の検証機で、モニターの入力ソースがHDMI 2に設定されていたのにHDMI 1に接続していて、GPUの故障を疑ってPC内部を開けてしまったことがある。30分かけてGPUを挿し直したりケーブルを交換したりした結果、モニターの入力切替ボタンを1回押すだけで映った。

ぶっちゃけ、「電源は入るが映らない」トラブルの体感2割はモニター側が原因です。入力切替、ケーブルの差し直し、モニター自体の電源オンオフ。PC内部を疑う前に30秒でいいのでモニター側をチェックしてみてください。

USB機器をすべて外す

USBハブや外付けHDD、カードリーダーなど接続中の周辺機器をすべて外した状態で電源ボタンを押す。まれに故障した周辺機器がショートを起こして、起動を妨げているケースがあります。キーボードとマウスだけ残して試してみてください。

放電(電源リセット)

電源ケーブルをコンセントから抜いて、電源ボタンを15〜20秒間長押しする。マザーボードに溜まった残留電荷が放電されます。終わったらケーブルを戻して電源を入れ直す。Microsoftのサポートページでも案内されている基本手順で、これだけで復旧するケースが地味に多いんです。

ケースを開けて内部をチェック

外側チェックで解決しなかった場合、サイドパネルを外して内部を確認する。作業前に体の静電気を逃がしておくこと(金属製の蛇口やPCケースの塗装されていない金属部分に触れる)。

電源コネクタの接続確認

マザーボードへの24ピンATX電源コネクタ、CPUへの8ピン(4+4ピン)補助電源コネクタ、GPUへの補助電源コネクタ。この3箇所がしっかり奥まで刺さっているか確認します。特にCPU補助電源の挿し忘れや抜けかけは自作erでもよくやるミスなんです。

コネクタを一度抜いて、カチッと音がするまで差し直す。接触不良が原因で起動しないケースは、持ち込み修理でも月に何台か見ていました。

メモリの挿し直し

メモリの接触不良は起動不良の定番原因。両端のラッチを外してメモリを抜き、端子部分にホコリや汚れがあれば乾いた布か無水エタノールで軽く拭いてから挿し直す。自分の自作機でも、メモリ端子を清掃して挿し直したらランダムフリーズが完全に直ったことがある。掃除して直るケースは15年やっていても忘れがちな基本です。

2枚以上挿している場合は、1枚だけにして起動テスト。1枚ずつスロットを変えて試せば、メモリ不良かスロット不良かの切り分けができます。

GPUの挿し直し

グラフィックボードをPCIeスロットから一度外して挿し直す。補助電源コネクタも忘れずに確認してください。GPUを外した状態でマザーボードの映像出力端子にモニターをつなげば、GPU自体の故障かどうかの切り分けになります(CPU内蔵グラフィックスがある場合に限る)。

最小構成テスト

CPU、メモリ1枚、電源ユニット、マザーボードだけの構成にして電源を入れる。GPUもストレージもすべて外す。この状態で電源が入れば、外したパーツのどれかが原因。入らなければ、CPU・マザーボード・電源ユニットのいずれかに障害がある可能性が高い。Intelのサポートページでも、自作PC向けの最小構成テスト手順が案内されています。

電源ユニットの生死を確認する方法

最小構成でも電源が入らないとき、電源ユニットが生きているかどうかを単体で調べたくなる気持ちはわかる。ただ手順を間違えると感電や機器破損のリスクがあるので慎重に進めてください。

マザーボードのスタンバイLED

多くのマザーボードには、電源ケーブルを接続して背面スイッチをオンにした時点で光るスタンバイLED(緑やオレンジの小さいランプ)がある。このLEDが光っていれば、少なくとも電源ユニットからマザーボードへの給電は生きています。光らないなら電源ユニットの故障かATX電源ケーブルの断線が濃厚です。

ペーパークリップテスト(上級者向け)

24ピンATXコネクタのPS_ONピン(緑の線、16番ピン)とGNDピン(黒の線)をペーパークリップやジャンパーワイヤで短絡させると、マザーボードなしでも電源ユニットが起動する。ファンが回れば通電している。

ただ、これはあくまでファンが回るかどうかを見るだけの簡易テスト。出力電圧が正常かまでは判断できない。15年やっていても、電圧の異常はテスターなしには見分けがつかないんですよね。確実に切り分けたいなら、別の正常な電源ユニットに交換して試すのが結局いちばん早い方法です。

修理に出すか、自分で対処するかの判断

外側チェックと内部チェックを一通り試してダメだった場合の判断基準を書いておきます。

自力で対処できる可能性が高いケース:

  • スタンバイLEDが光らない・ペーパークリップテストでファンが回らない → 電源ユニットの交換
  • メモリ1枚テストで特定のメモリだけ起動しない → そのメモリの交換
  • GPU外し状態では内蔵グラフィックスで起動する → GPUの交換

メーカーや修理業者に相談すべきケース:

  • 最小構成でも起動しない(マザーボードまたはCPUの故障の可能性)
  • 焦げたにおいがする・コンデンサが膨らんでいる
  • メーカー保証期間内のPC(自分で開けると保証が切れる場合がある)

結局のところ、「電源が入らない」トラブルの大半は電源ケーブル・電源ユニット・メモリの3つに原因が集約されます。持ち込み修理でもこの3つで7割以上は解決していた。まず外側から順にチェックして、ダメなら最小構成テスト。そこまでやって原因が絞れなければ、修理のプロに任せるのが正解です。

FAQ

電源ボタンを押すとファンが一瞬だけ回ってすぐ止まるのはなぜ?

電源ユニットの保護回路が作動している可能性が高いです。ショートや過負荷を検知すると自動で電源が遮断されます。すべてのパーツを外して最小構成にしてから再度試してみてください。CPU補助電源(8ピン)の挿し忘れでもこの症状が出ることがあります。

ノートPCでも同じ手順でチェックできる?

外側チェック(別のACアダプター・コンセント・放電)は共通ですが、内部チェックはノートPCだと分解が必要になるため自力では難しいケースが多いです。メーカーサポートへの問い合わせを優先してください。

昨日まで普通に使えていたのに急に電源が入らなくなることはある?

あります。電源ユニットの突然死、マザーボードのコンデンサ劣化、停電・雷サージによる電源回路の損傷などが原因として多いです。雷が鳴った翌日に電源が入らなくなったという持ち込みは修理対応でも何件か見ました。サージプロテクタ付きの電源タップが予防になります。

電源が入らないとき、PC内のデータは消えている?

電源が入らないこと自体ではデータは消えません。データはSSDやHDDに保存されているので、ストレージが物理的に壊れていなければ別のPCに接続して取り出せます。ただしストレージの故障が原因で起動しないケースもゼロではないため、日頃のバックアップが重要です。

参考文献