前職で Notion の Plus プランを 800 名に一括展開して、半年後にアクティブ率 40% で混在運用に戻した経験がある。SaaS の全社導入でいちばん痛いのは「使っていない人のライセンス費」だ。2026 年 6 月 16 日に一般提供(GA)が始まった Microsoft 365 Copilot の新機能「Cowork」でも、コスト構造を見誤ると同じ轍を踏む。

結論。Cowork は月額の Copilot ライセンスとは別に従量課金がかかる。管理者が支出上限を設定しないまま全社に開放すると、ヘビーユーザーだけで月数百ドル規模のクレジット消費が積み上がる。

Cowork の従量課金は月額ライセンスに含まれない

Microsoft 365 Copilot のライセンス料金は年払いで 1 ユーザーあたり月額 21 ドル、月払いなら 25 ドルだ(Microsoft 公式価格ページ、2026 年 6 月時点)。Word や Excel、Teams での Copilot アシストはこのライセンスに含まれる。

Cowork は違う。

Cowork はエージェント型の機能で、複数のアプリを横断してタスクを自律実行する。会議準備ブリーフの作成、メール下書き、プレゼン資料のたたき台生成といった作業を Copilot に丸投げできる代わりに、実行ごとに「Copilot クレジット」が消費される。このクレジットは Azure の従量課金として請求される仕組みだ。

つまりライセンス料と従量課金の二重構造になる。ライセンスだけ払えば使い放題だと思い込んでいた管理者は、翌月の Azure 請求書を見て驚くことになる。

タスクの軽重で変わるクレジット消費量

Copilot クレジットの単価は Pay-As-You-Go(PAYG)で 1 クレジットあたり 0.01 ドルだ。年間コミットの前払いプラン(P3)なら約 20% 引きの 0.008 ドル/クレジットになる(Microsoft 365 Blog、2026 年 6 月 16 日)。

タスクは実行内容に応じて「軽量」「中量」「重量」の 3 段階に分類され、消費クレジット数が大きく変わる。Frontier プログラム(先行利用者向けプレビュー)で集計されたデータをもとにした目安が以下だ。

タスク分類消費クレジット目安PAYG 概算コスト具体例
軽量(Light)約 125 クレジット約 1.25 ドルメール下書き、簡単な要約
中量(Medium)約 500 クレジット約 5 ドル会議準備ブリーフの作成
重量(Heavy)約 2,500 クレジット約 25 ドル役員向けプレゼン資料の生成

選択する AI モデルや参照するデータソースの数によって前後する点は押さえておきたい。GA 時点では Anthropic Opus 4.8 と Sonnet 4.6 が選択可能で、今後 Cowork 1(低コスト最適化モデル)も追加される予定だ。コスト重視なら Sonnet 4.6 を指定するのが合理的と読める。

管理者が最初に設定すべき支出上限とアラート

Cowork はデフォルトで無効化されている。管理者が意図的にオンにしなければ社員は使えない。このオプトイン方式自体は安全だが、有効にした瞬間に従量課金が始まるので、先に支出上限を入れておくのが鉄則だ。

Microsoft 365 管理センターでの設定手順は以下のとおり。

  1. 管理センターにサインインし、左メニューの「Copilot」→「Billing & Usage」を開く
  2. 「Add a billing policy(課金ポリシーの追加)」を選択し、ポリシー名を入力して Azure サブスクリプションを紐付ける
  3. 対象ユーザーの範囲を「全ユーザー」または「セキュリティグループ単位」で指定する
  4. 「Budget」タブで「Set limits for this billing policy」にチェックを入れ、月額上限額を入力する
  5. アラートしきい値を 50%・80%・100% の 3 段階で設定する。100% 到達時に自動停止するかどうかも選択可能だ

コンサル先で SaaS 棚卸しを何度かやってきた経験から言うと、最初は全社一律ではなくパイロットチーム 5〜10 名に絞って 60〜90 日間の PAYG データを取るのが最も合理的だ。利用実績が見えてから P3 前払いへ移行するかを判断すればいい。

50 名規模のチームで月額コストを試算する

コンサル先でよくある 50 名規模の組織を想定して、Cowork の月額コストを出してみる。

Microsoft の公式ブログによれば、一般的なナレッジワーカーの月間消費は 3,000〜5,000 クレジット、技術系ワーカーは 12,000 クレジット超とされている。ここでは保守的に、全員がナレッジワーカー(月 4,000 クレジット平均)だと仮定する。

項目月額(PAYG)年額
Copilot ライセンス(50 名 × 21 ドル)1,050 ドル12,600 ドル
Cowork クレジット(50 名 × 4,000 cr × 0.01 ドル)2,000 ドル24,000 ドル
合計3,050 ドル36,600 ドル

ライセンス費が月 1,050 ドルに対して、Cowork の従量課金が 2,000 ドル。ライセンスの約 1.9 倍が従量課金で上乗せされる計算だ。

ただし全員が同じ頻度で使うことはまずない。コンサル先 50 名規模の会社で ChatGPT の有料プランを棚卸ししたとき、個人課金していた 12 名のうち週 3 回以上ログインしていたのは 5 名だけだった。Cowork でも同じ傾向が出ると考えるべきだ。

現実的な分布を当てはめてみる。ヘビーユーザー 10 名(月 8,000 クレジット)、ライトユーザー 15 名(月 1,500 クレジット)、未使用 25 名(0 クレジット)。この場合の月額クレジットコストは(10 × 8,000 + 15 × 1,500)× 0.01 = 1,025 ドルだ。ライセンス費と合わせて月 2,075 ドル、年額 24,900 ドル。全員課金の想定より約 32% 低くなる。

P3 前払いプラン(0.008 ドル/クレジット)に切り替えれば、クレジット部分がさらに 20% 下がる。ただし P3 は Copilot Studio とクレジットプールを共有する。Copilot Studio を併用している組織では、両方の消費量を合算してからコミット量を決めなければ過不足が出る。

筆者の判断としては、50 名規模なら PAYG で 2〜3 か月の実績データを取り、月間消費が安定してきた時点で P3 に切り替えるのが最もリスクが低い。

FAQ

Copilot ライセンスなしで Cowork だけ使えるか

使えない。Cowork の利用には Microsoft 365 Copilot のユーザーサブスクリプションライセンス(USL)が前提条件だ。ライセンスなしのユーザーには Cowork のメニュー自体が表示されない。

Cowork の従量課金に上限を設定しないとどうなるか

Azure サブスクリプションに紐付いた支払い方法に、使った分だけ青天井で請求される。Microsoft 365 管理センターの「Billing & Usage」で月額上限を設定すれば、しきい値到達時にアラート通知か自動停止を選べる。

Frontier プログラムで先行利用していた場合の課金はいつからか

2026 年 3 月 30 日から 6 月 16 日までの Frontier 利用分は猶予期間が設定されており、請求開始は 2026 年 7 月 1 日からだ(Microsoft 365 Blog)。

AI モデルの選択でコストは変わるか

変わる。GA 時点で Anthropic Opus 4.8 と Sonnet 4.6 が選択可能で、後者のほうが消費クレジットが少ない傾向にある。今後提供予定の Cowork 1 はコスト最適化モデルとして設計されており、さらに低コストになる見込みだ。

参考文献