「来月から完全リモートになるけど、通勤手当はカットね」——こんな通達を受けて「え、手取り減るじゃん…」とモヤモヤしている人、増えています。SNSでも「完全リモートにするから月給2万円減」という声が話題になりました。
2026年現在、コロナ後に定着したリモートワークですが、「出社回帰」の企業と「完全リモート化」の企業で二極化が進んでいます。どちらのケースでも、通勤手当の扱いと在宅勤務手当(テレワーク手当)の有無で、毎月の手取りが数千円〜数万円変わることがあるんです。
この記事では、「在宅勤務になったら通勤手当がなくなった」「月給が下がるのは違法じゃないの?」という疑問に、労働契約法のルールをもとにわかりやすく解説します。2026年4月時点の最新情報です。
通勤手当カット=即「違法」ではない。でも条件がある
まず結論から言うと、在宅勤務への切り替えに伴って通勤手当をカットすること自体は、直ちに違法とは言えません。通勤手当は法律で支給が義務づけられているものではなく、あくまで会社の就業規則や雇用契約で定められた「任意の手当」だからです。
ただし、ここがポイント。就業規則で「通勤手当を支給する」と決まっている場合、それを一方的に廃止・減額するのは「不利益変更」に該当します。労働契約法第10条では、就業規則の不利益変更が認められるには以下の条件をすべて満たす必要があると定めています。
- 変更の合理性があること(「在宅勤務で通勤しなくなった」は合理的な理由になり得る)
- 労働者の不利益の程度が過大でないこと(手取りが大幅に減るなら問題)
- 代償措置があること(在宅勤務手当の新設など)
- 労働者への周知・説明があること
つまり、「通勤しなくなったから通勤手当ゼロ」はまだわかるとして、代わりの手当もなく基本給まで減額されるのは、法的にかなりグレーです。大阪地裁の判例(平成12年8月25日判決)では、通勤手当等の減額が「労働者にとっては少なくない金額」として無効と判断されたケースもあります。
在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場は月3,000〜5,000円
通勤手当がなくなる代わりに、在宅勤務手当(テレワーク手当)を支給する企業が増えています。2026年4月時点で、主な企業の支給額はこんな感じです。
- 富士通:月額5,000円
- メルカリ:半年分6万円(月額換算1万円)
- ドワンゴ:月額2万円(原則在宅勤務)
- ダイドードリンコ:月額3,000円
業界全体の相場としては月3,000〜5,000円が多数派です(マイナビ転職調べ)。ただし、在宅勤務手当を支給している企業は全体の3割未満というデータもあり、「手当なし・自腹」の人がまだまだ多いのが現実です。
ちなみに、在宅勤務で実際に増える費用は電気代が月2,000〜5,000円、通信費(Wi-Fi)が月4,000〜5,000円程度。手当がなければ丸ごと自己負担になるわけで、「通勤手当がなくなった分」と差し引きすると損している人も少なくありません。
「基本給の減額」と「手当の廃止」はまったく別モノ
ここで注意したいのが、「通勤手当の廃止」と「基本給の減額」は法的にまったく意味が違うということです。
通勤手当は「実費弁償」の性質が強いため、通勤しなくなれば廃止されても合理性は認められやすいです。しかし、基本給や職務手当を「リモートだから」という理由だけで下げるのは、労働契約法上かなりハードルが高いのです。
SNSで話題になった「月給2万円減」のケースで言えば、その内訳が重要です。
- 通勤定期代(月2万円)の廃止だけ → 通勤しないなら合理性あり(ただし代償措置が望ましい)
- 基本給を2万円引き下げ → 労働者の合意なしには原則NG。労働基準監督署に相談すべきケース
- 通勤手当廃止+在宅勤務手当なし → 法的にはOKでも、会社に交渉の余地あり
自分の給与明細を見て、何が減っているのかを正確に把握することが第一歩です。
損しないために今すぐ確認すべき5つのチェックリスト
「在宅勤務になって手取りが減った気がする…」と感じたら、以下を確認しましょう。
1. 就業規則の変更内容を確認する
通勤手当の廃止や在宅勤務手当の新設は、就業規則の変更が必要です。会社から変更の説明や書面での通知がなかった場合、手続きに不備がある可能性があります。人事部や総務部に「就業規則のどこが変わったのか」を書面で確認しましょう。
2. 在宅勤務手当が支給されているか確認する
通勤手当が廃止されたのに在宅勤務手当が新設されていない場合、会社に手当の新設を提案・交渉する余地があります。「在宅勤務で電気代・通信費が月5,000円以上増えている」というデータは交渉材料になります。
3. 出社日の交通費が実費支給されるか確認する
完全リモートではなくハイブリッド勤務の場合、出社した日の交通費が実費精算されるかを確認しましょう。定期代の代わりに都度精算になるケースが多いですが、精算方法が不明確だと自腹になりがちです。
4. 社会保険料への影響を確認する
意外と知られていませんが、通勤手当は社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)に含まれます。つまり、通勤手当がなくなると標準報酬月額が下がり、社会保険料も下がる=手取りが少し増える場合があります。逆に言えば、将来の年金受給額にも影響するので、長期的な視点も必要です。
5. 基本給が減っていないか給与明細を確認する
通勤手当の廃止に紛れて基本給や職務手当が減額されていないか、過去3ヶ月分の給与明細を比較しましょう。基本給の減額は労働者の個別同意が必要(労働契約法第8条・第9条)であり、同意なく減額されていれば違法の可能性があります。
おかしいと思ったら?相談先と対処の流れ
チェックリストを確認して「これはおかしい」と感じたら、以下の順番で対処しましょう。
- まず人事・総務に書面で質問する — 「就業規則のどの条項に基づく変更か」「代償措置はあるか」を確認
- 労働組合があれば相談する — 組合を通じた団体交渉は法的に保護されています
- 労働基準監督署に相談する — 無料で相談でき、会社への是正指導が行われることもあります。厚生労働省の管轄一覧から最寄りの署を確認できます
- 弁護士・社労士に相談する — 厚生労働省「確かめよう労働条件」では無料で労働条件に関するQ&Aが確認できます
大事なのは、「モヤモヤしたまま放置しない」こと。労働条件の不利益変更は、時間が経つと「黙示の同意」とみなされるリスクがあります。気づいたらできるだけ早く行動しましょう。
FAQ
在宅勤務になったら通勤手当がゼロになるのは違法ですか?
直ちに違法とは言えません。通勤手当は法律上の義務ではなく、就業規則に基づく手当です。ただし、就業規則の変更手続き(周知・合理性)を経ずに一方的にカットされた場合は、労働契約法第10条に違反する可能性があります。
在宅勤務手当の相場はいくらですか?
2026年4月時点で、月額3,000〜5,000円が一般的な相場です。ただし、支給している企業は全体の3割未満であり、手当なしの企業も多いのが現状です。
在宅勤務の電気代や通信費は会社に請求できますか?
法的な請求権は原則ありませんが、厚生労働省のテレワークガイドラインでは「費用負担について労使で十分に話し合うこと」が推奨されています。就業規則に費用負担の規定がある場合は請求可能です。
在宅勤務手当は課税されますか?
原則として課税対象(給与所得)です。ただし、国税庁のFAQによると、在宅勤務に通常必要な費用を精算する方法であれば非課税として扱われるケースもあります。詳しくは国税庁の在宅勤務FAQを確認してください。
通勤手当がなくなると社会保険料は下がりますか?
はい、通勤手当は標準報酬月額の算定に含まれるため、手当がなくなると社会保険料が下がる可能性があります。ただし、将来の厚生年金受給額にも影響するため、一概に得とは言えません。
参考文献
- テレワーク経費について、会社と個人で負担の線引きは? — 厚生労働省「確かめよう労働条件」
- 在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係) — 国税庁
- テレワーク・在宅勤務の導入で、賃金・交通費・通勤手当を減らせる? — ビズベン(弁護士法人浅野総合法律事務所)
- 労働契約法第10条とは?就業規則や不利益変更、違反例をわかりやすく解説 — マネーフォワード
- 在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場はいくら?事例も踏まえて解説 — 弁護士法人浅野総合法律事務所






