「今年は売上がほとんどなかったし、赤字だから確定申告しなくていいでしょ?」――そう思っていませんか?

じつは、赤字のときこそ確定申告したほうがトクするケースがたくさんあります。とくに青色申告をしている個人事業主なら、赤字(純損失)を翌年以降最大3年間繰り越して、将来の黒字と相殺できる「純損失の繰越控除」という制度が使えるんです。

この記事では、2026年3月時点の情報をもとに、売上ゼロ・赤字でも確定申告すべき理由、純損失の繰越控除の仕組み、そして具体的な手続き方法をわかりやすく解説します。

そもそも赤字だと確定申告は「義務」じゃない?

結論からいうと、事業所得が赤字で所得税がゼロの場合、確定申告の法的義務はありません。所得税法では「納める税金がある人」が申告義務を負うので、赤字=納税額ゼロなら出さなくても罰則はないんです。

でも、「義務がない」と「やらなくていい」はまったく別の話。赤字でも確定申告すると、以下のようなメリットがあります。

  • 純損失の繰越控除で、翌年以降の黒字から赤字分を差し引ける(最大3年間)
  • 純損失の繰戻し還付で、前年に支払った所得税の一部が返ってくることも
  • 所得証明書・課税証明書が発行できるようになる(住宅ローン審査などに必要)
  • 国民健康保険料が正しく計算され、軽減を受けられる可能性がある
  • 他の所得(給与所得など)との損益通算で税金が安くなることも

つまり、「赤字だから出さなくていいや」と放置すると、将来の節税チャンスをみすみす逃すことになります。とくに開業1年目や投資が多かった年は、赤字が大きくなりがち。その赤字を「貯金」しておけるのが繰越控除なんです。

「純損失の繰越控除」ってなに?ざっくり仕組みを解説

純損失の繰越控除は、青色申告をしている個人事業主だけが使える制度です。ざっくり言うと、「今年の赤字を来年以降の黒字と相殺して、所得税を減らせる」というもの。

たとえば、こんなケースを考えてみましょう。

年度事業所得繰越控除の適用課税所得
2025年-100万円(赤字)0円
2026年+60万円(黒字)-60万円を繰越控除0円
2027年+80万円(黒字)-40万円を繰越控除(残り分)40万円

2025年に100万円の赤字が出ても、翌年と翌々年で合計100万円分の黒字と相殺できるので、2026年は所得税ゼロ、2027年も40万円分だけの課税で済みます。赤字を申告しなかった場合は2026年に60万円、2027年に80万円に対してまるまる課税されてしまいます。

この差は大きいですよね。国税庁の「青色申告制度」解説ページによれば、繰越控除の期間は損失が生じた年の翌年から最大3年間です。

繰越控除を使うための3つの条件

「じゃあ誰でも使えるの?」というと、そうではありません。以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

条件1: 青色申告の承認を受けていること

白色申告では純損失の繰越控除は使えません(一部の損失を除く)。まだ青色申告の届出をしていない人は、「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出しましょう。原則として、適用を受けたい年の3月15日までに提出が必要です(新規開業の場合は開業日から2か月以内)。

条件2: 赤字が出た年に期限内に確定申告していること

ここが最大のポイント。赤字の年に確定申告をしていないと、繰越控除は使えません。「赤字だから申告しなかった」が一番もったいないパターンです。確定申告の期限は原則として翌年の2月16日〜3月15日(2026年分なら2027年3月15日まで)。

条件3: 翌年以降も連続して確定申告を続けること

繰越控除を受けるには、赤字の年だけでなく、翌年以降も途切れずに確定申告を続ける必要があります。途中で1年でもサボると、繰越した損失が消えてしまうので注意しましょう。

具体的な手続き方法:確定申告書「第四表」の書き方

赤字で損失申告をする場合、通常の確定申告書(第一表・第二表)に加えて、「確定申告書 第四表(損失申告用)」を提出します。第四表には(一)と(二)の2ページがあります。

第四表の書き方(ざっくり版)

  1. 第四表(一): 今年発生した損失額を記載します。事業所得の赤字額を「経常所得」の欄に書きます
  2. 第四表(二): 繰り越す損失の内訳を記載します。「翌年以後に繰り越す損失額」の欄に金額を記入します
  3. 翌年以降、繰越控除を適用する年は、第四表(二)の「繰越損失を差し引く計算」欄で、その年の所得から控除します

正直なところ、手書きだとちょっとややこしいです。freeeやよいの青色申告マネーフォワード クラウド確定申告などの会計ソフトを使えば、赤字と入力するだけで第四表が自動生成されるので、手間なくできます。

また、国税庁の確定申告書等作成コーナーでも、画面の案内に沿って入力すれば第四表が自動的に作成されます。e-Taxで電子申告する場合も同様です。

もうひとつの武器:「繰戻し還付」も知っておこう

繰越控除が「赤字を未来に持ち越す」制度なら、繰戻し還付は「赤字を過去に適用する」制度です。

前年に黒字で所得税を払っていた場合、今年の赤字を前年の所得に適用して、前年に納めた所得税の一部(または全部)が還付されます。

たとえば、2025年に50万円の所得税を払い、2026年に大きな赤字が出た場合、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告と一緒に提出すれば、前年の所得税が戻ってきます。

ただし注意点があります。

  • 繰戻し還付の対象は所得税のみ。住民税・個人事業税には適用されません
  • 前年も青色申告で期限内に確定申告している必要があります
  • 繰戻し還付と繰越控除はどちらか一方を選ぶことになります(併用はできません)

「去年けっこう税金を払ったんだよな……」という人は、繰戻し還付のほうがお得な場合もあります。どちらが有利かは、今後の事業見通しによって変わるので、迷ったら税理士に相談するのがベストです。

副業サラリーマンも使える?損益通算のポイント

会社員(給与所得者)が副業で個人事業を行っている場合、事業所得の赤字は給与所得と「損益通算」できます。つまり、副業の赤字分だけ給与所得が減り、結果として所得税が安くなる(還付される)可能性があります。

ただし2022年(令和4年)の通達改正により、「収入300万円以下かつ帳簿をつけていない副業」は雑所得として扱われ、損益通算の対象外になりました。副業で損益通算したい場合は、開業届を出して青色申告承認申請をし、きちんと帳簿をつけることが大前提です。

また、損益通算しても控除しきれない赤字が残った場合は、前述の繰越控除を使って翌年以降に持ち越すことも可能です。

FAQ

Q. 白色申告でも赤字の繰越控除はできますか?

原則としてできません。白色申告で繰り越せるのは、変動所得の損失と被災事業用資産の損失に限られます。事業所得の通常の赤字を繰り越したい場合は、青色申告への切り替えが必要です。切り替えには「所得税の青色申告承認申請書」を翌年3月15日までに税務署に提出します。

Q. 赤字の確定申告を忘れていた場合、後から出しても大丈夫ですか?

期限後申告でも受理はされますが、青色申告の純損失の繰越控除は期限内申告が条件なので、遅れて出した場合は繰越控除を使えない可能性が高いです。赤字の年は期限内(翌年3月15日まで)に必ず申告しましょう。

Q. 繰越控除は自動で適用されますか?

自動では適用されません。翌年の確定申告時に第四表を使って「繰越損失を差し引く計算」を自分で記載する必要があります。会計ソフトを使っていれば、前年の繰越損失データを引き継いで自動計算してくれるものが多いです。

Q. 開業1年目で初期投資が大きく赤字になりました。確定申告すべきですか?

絶対にすべきです。開業1年目は設備投資・備品購入・広告費など初期費用が大きく、赤字になりやすいです。この赤字を繰越控除で翌年以降に活かせば、事業が軌道に乗ったときの税金を大幅に減らせます。開業届と一緒に青色申告承認申請書を出しておくのがベストです。

Q. 繰戻し還付と繰越控除、どちらを選べばいいですか?

前年に多くの税金を払っていて、今後の売上見通しが不透明な場合は繰戻し還付で確実にお金を回収するのがおすすめです。逆に、来年以降に黒字化が見込める場合は繰越控除のほうが控除額が大きくなる可能性があります。判断が難しい場合は税理士への相談をおすすめします。

参考文献