副業で収入を得ている会社員が確定申告のときに必ず悩むのが、「この副業の収入って、事業所得? それとも雑所得?」という問題です。

FP相談でよく聞かれるのが、まさにこの質問。結論から言うと、帳簿をつけているかどうかが、2022年10月の国税庁通達改正以降、最大の判断ポイントになっています。事業所得か雑所得かで、青色申告特別控除(最大65万円)や赤字の損益通算が使えるかどうかが変わるため、手取り額に大きな差が出ます。

この記事では、2026年4月時点の最新ルールに基づいて、副業の所得区分の判断基準・税金の違い・帳簿をつけるメリットをわかりやすく解説します。

事業所得と雑所得、なにが違うの?

まず、ざっくり言うとこういう違いがあります。

比較項目事業所得雑所得
青色申告特別控除最大65万円(令和9年分から最大75万円)使えない
赤字の損益通算給与所得と相殺できるできない
赤字の繰越控除3年間繰り越せるできない
少額減価償却資産の特例30万円未満を一括経費にできる使えない
帳簿の義務必須(複式簿記で65万円控除)収入300万円超で義務あり

つまり、事業所得として申告できれば、税制上のメリットがかなり大きいわけです。たとえば副業で年間50万円の経費がかかって赤字になった場合、事業所得なら本業の給与所得から赤字分を差し引いて税金を減らせます(損益通算)。雑所得だと、赤字はそのまま切り捨てられて終わりです。

2022年10月の通達改正で「帳簿の有無」が決定的に重要になった

副業の確定申告で実際に詰まった経験から言うと、この所得区分の判断は2022年を境に大きく変わりました。

2022年8月、国税庁が「副業収入300万円以下は一律で雑所得」とする通達案を出して大炎上。7,059件ものパブリックコメントが寄せられた結果、2022年10月7日に大幅修正された改正通達(所得税基本通達35-2)が公表されました。

改正後のルールを整理すると、次のようになります。

判断フローチャート

  1. 帳簿書類の保存がある場合 → 原則として事業所得に該当する(ただし、収入が僅少で赤字が続くなど「社会通念上、事業とは言えない」場合は雑所得に戻される可能性あり)
  2. 帳簿書類の保存がない場合 → 原則として雑所得に該当する(ただし、収入300万円超で事業と認められる事実があれば事業所得の余地あり)

要するに、「帳簿をつけて保存しているかどうか」が第一の分かれ道になったんです。以前は売上規模や継続性など曖昧な基準で判断されていましたが、改正後は帳簿の有無という客観的な事実がまず問われます。

筆者自身、独立初年度に開業届と青色申告承認申請の提出タイミングを間違えて白色申告になってしまい、約30万円の還付を取り損ねた苦い経験があります。あのとき帳簿の準備を最初からしていれば、と今でも悔やむポイントです。制度は「知ってから使う」のではなく、「使う前提で逆算して準備する」のが鉄則だと痛感しました。

「帳簿をつけていれば必ず事業所得」ではない — 社会通念上の判断も残っている

ここで注意してほしいのが、帳簿があれば自動的に事業所得になるわけではないという点です。

国税庁の通達では、帳簿保存があっても以下のような場合は「事業と認められるかどうか個別に判断する」とされています。

  • その所得の収入金額が僅少と認められる場合(目安:例年、収入300万円以下で本業の10分の1未満)
  • その所得を得る活動に営利性が認められない場合(例:長年赤字が続いていて黒字化の見通しがない)

最高裁判例(昭和56年4月24日)でも、事業所得は「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」と定義されています。

ざっくり言うと、「ちゃんと利益を出そうとして継続的にやっている副業で、帳簿もつけている」なら事業所得として認められやすいということです。

令和9年分から青色申告特別控除が最大75万円に引き上げ

事業所得で確定申告するメリットがさらに大きくなる改正が控えています。令和8年度(2026年度)税制改正大綱で、令和9年分(2027年分)の所得税から青色申告特別控除の区分が見直されることが盛り込まれました。

控除額要件(令和9年分〜)
75万円(新設)複式簿記 + e-Tax期限内提出 + 仕訳帳・総勘定元帳の電子保存
65万円(従来の55万円枠を引き上げ)複式簿記 + e-Tax期限内提出
10万円簡易簿記

つまり、クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)で帳簿を電子保存してe-Taxで申告すれば、控除額が65万円 → 75万円に10万円アップします。副業の規模が大きい人ほど、事業所得 + 青色申告の恩恵が大きくなるわけです。

副業会社員が今すぐやるべき3つのステップ

ここまで読んで「じゃあ帳簿をつけたほうがいいのはわかったけど、具体的に何をすればいいの?」という方へ、やるべきことを3つにまとめます。

ステップ1:開業届と青色申告承認申請書を税務署に提出する

副業を事業所得として申告するには、開業届(個人事業の開業届出書)青色申告承認申請書を税務署に提出します。青色申告承認申請書は、その年の3月15日まで(1月16日以降に開業した場合は開業から2か月以内)に出す必要があります。出し忘れるとその年は白色申告になってしまうので要注意です。

ステップ2:クラウド会計ソフトで複式簿記の帳簿をつける

65万円(将来は75万円)の控除を受けるには複式簿記が必要ですが、クラウド会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードと連携して自動で仕訳を作ってくれます。副業レベルの取引量なら、無料プランや月額1,000円程度のプランで十分です。

ステップ3:e-Taxで期限内に確定申告する

e-Tax(国税電子申告・納税システム)でオンライン提出すれば、65万円控除の要件を満たせます。マイナンバーカードとスマホがあれば自宅から提出できます。

FAQ

副業収入が年間20万円以下なら事業所得でも雑所得でも関係ない?

所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要です。また、将来的に副業の規模が大きくなる予定があるなら、最初から帳簿をつけて事業所得として申告しておくと、赤字を繰り越せるメリットがあります。

会社員の副業でも開業届を出して大丈夫?会社にバレない?

開業届を出したこと自体が会社に通知されることはありません。副業が会社に知られる主な原因は住民税の金額変動です。確定申告時に住民税を「自分で納付(普通徴収)」にチェックすれば、副業分の住民税が会社に通知されるリスクを減らせます。

帳簿をつけていない過去の副業収入を、さかのぼって事業所得に変更できる?

帳簿保存がない年分については、原則として雑所得として扱われます。過去の申告をさかのぼって事業所得に修正するのは難しいため、今年分から帳簿をつけ始めるのが現実的です。

雑所得のまま申告し続けるデメリットは?

青色申告特別控除(65万〜75万円)が使えず、赤字の損益通算・繰越控除もできません。副業で年間100万円以上の収入がある場合、事業所得との税額差は年間10万円以上になることもあります。

令和9年分から75万円控除を受けるには何が必要?

複式簿記での記帳に加え、仕訳帳・総勘定元帳を電子データで保存し、e-Taxで期限内に申告することが要件です。クラウド会計ソフトを使っていれば、電子保存の要件は基本的に満たせます。2026年中に準備しておくのがおすすめです。

参考文献