自分の工房にはPCが7台並んでいるんですが、夏場のBIOSアップデートだけは雷注意報が出ている日を絶対にやらないルールにしています。アップデート中に停電したらマザーボードが文鎮化する。15年やっていてもこのリスクだけは回避しようがないので、天気予報を見てから作業する癖がつきました。

ただ、壊れるのはBIOSアップデート中だけじゃないんですよね。「雷サージ」という、落雷時に電線やLANケーブルを伝って流れ込む異常電圧は、普通にPCを使っているだけでもパーツを一撃で壊すことがある。PCショップ時代にも夏になると「雷が鳴った後からパソコンが動かない」という持ち込みが毎年何台か来ていました。

結局のところ、雷からパソコンを守るには何をすればいいのか。電源を抜くのが正解なのか、雷ガード付き電源タップで十分なのか。工房7台を15年運用してきた経験から言うと、やるべきことは意外とシンプルです。

雷サージは「直撃」しなくてもパソコンを壊す

まず押さえておきたいのが、雷で家電やPCが壊れるのは「直撃雷」だけが原因ではないということ。むしろ被害の大半は「誘導雷サージ」と呼ばれる、近くの電線や通信線を伝って屋内に流れ込む異常電圧です。

仕組みはこう。雷が近くの電柱や建物に落ちると、周囲の電線に瞬間的な高電圧(サージ)が発生します。サンワサプライの解説によると、一般家庭の低圧配電線に侵入する雷サージ電圧は2,000V〜5,000Vが全体の約70%を占め、まれに15,000V以上が観測されることもあるとのこと。家庭用コンセントの定格は100Vですから、数十倍の電圧が一瞬で流れ込む計算になります。

厄介なのが、サージの侵入経路は電源ケーブルだけじゃないという点。LANケーブル、電話線、テレビのアンテナ線、アース線など、外部と物理的につながっているケーブルはすべてサージの通り道になり得ます。自分の工房でもPCの電源タップは雷ガード付きにしているんですが、LANケーブルは盲点だったりする(ちなみに有線LAN派の自作erは意外と多い)。

壊れやすいパーツと、壊れたときの症状

修理ショップ勤務時代に雷被害の持ち込みを何台か見てきた経験では、壊れやすいパーツには偏りがあります。

電源ユニット(PSU)が最も多い。電源ユニットはコンセントからの電力を最初に受け取るパーツなので、サージの直撃を真っ先に食らいます。壊れると電源ボタンを押しても一切反応しなくなるか、ファンが一瞬回って止まるパターンが多かった。ただし、電源ユニット自体がサージを吸収して他のパーツを守ってくれる「犠牲」になるケースもあるので、電源だけ交換すれば復活することもあります。

マザーボードも壊れやすい。電源ユニットで吸収しきれなかったサージがマザーボードに到達すると、チップセットやVRM(電圧制御回路)がやられます。こうなると電源を替えても起動しない。自分の経験では、雷被害で持ち込まれたデスクトップの体感3割は電源とマザーボードの同時故障でした。

ルーター・モデムは見落としがち。LANケーブルや電話線経由でサージが入ると、ルーターのWANポートやモデムの基板がやられます。「雷の後からネットだけ繋がらない」というのはこのパターン。PCは無事なのにルーターだけ死んでいることがある。

逆に、SSDやHDDなどのストレージが雷サージで壊れるケースは比較的少ないです。電源ユニットやマザーボードがサージを先に受け止めるため、ストレージまで到達する前に止まることが多い。とはいえ、データが無事かどうかは別問題なので、日頃のバックアップは必須です。

雷が鳴ったときにやるべきこと

ぶっちゃけ、最も確実な雷対策は「物理的にケーブルを抜く」こと。雷サージは電線を伝って入ってくるので、コンセントから抜けばそもそも経路が断たれます。

ただし、抜く順番が大事なんですよね。

手順:

  1. 作業中のデータを保存する。Ctrl+Sを連打してから次へ
  2. パソコンをシャットダウンする。いきなりコンセントを抜くのはNG。ファイルシステムが壊れるリスクがある
  3. 電源ケーブルをコンセントから抜く。PC本体だけでなく、モニター・ルーター・モデムも
  4. LANケーブルを抜く。有線LAN接続の場合は忘れずに
  5. テレビアンテナ線があれば抜く。地デジチューナー付きPCの場合

「そんな悠長にやってる暇あるの?」と思うかもしれません。実際、雷が鳴り始めてから近くに落ちるまでの時間は予測できない。だから自分の工房では、天気予報で雷注意報が出た時点で作業を切り上げてケーブルを抜くルールにしています。鳴ってから慌てるのではなく、注意報の段階で動くのがポイント。

在宅勤務中だとWeb会議の途中で抜くわけにもいかないので、後述する雷ガード付き電源タップで「最低限の保険」をかけておくのが現実的な落としどころです。

「雷ガード」電源タップの仕組みと選び方

雷ガード付き電源タップには、内部にバリスタ(サージ吸収素子)という部品が入っています。普段は電気を通さないんですが、数千ボルトの異常電圧が来たときだけ電気抵抗が下がって、サージ電流をバリスタ側に逃がす仕組み。これにより、PC側に高電圧が流れるのを防ぎます。

選ぶときに見るべきポイントは3つ。

1. サージ吸収の最大電圧。製品パッケージに「最大サージ電圧 〇〇V」と書いてあります。数値が高いほど大きなサージに耐えられる。エレコムの雷ガードタップの場合、JEC規格で12,500Vや15,000V対応のモデルが出ています。最低でも6,000V以上のものを選んでおくと安心。

2. 作動確認ランプの有無。これ意外と見落とす人が多い。バリスタは一度大きなサージを吸収すると劣化して、保護機能を失います。ランプが消灯したら「もう雷ガードは効いていない」という意味なので、電源タップごと買い替えが必要。ランプがない製品だと、壊れているかどうか外見ではわからないので避けたほうがいいです。

3. 電源だけでなくLAN・電話線もカバーするモデル。前述の通り、サージはLANケーブルからも侵入します。電源だけ雷ガードしてLAN側がノーガードだと片手落ち。サンワサプライの雷ガード製品にはLANポート・電話線のサージ保護を備えたモデルもあるので、有線LAN環境なら検討する価値があります。

ただし、正直に書くと、雷ガード付き電源タップにも限界はあります。PC Watchの特集記事でも指摘されているように、至近距離の直撃雷による数万ボルト級のサージは、民生品のバリスタでは吸収しきれないことがある。あくまで「近くの落雷による誘導サージ」への備えであって、直撃を防ぐものではない。最終的には「抜くのが最強」という結論は変わりません。

雷でPCが壊れたら火災保険を確認する

意外と知られていないんですが、落雷によるパソコンやルーターの故障は、火災保険で補償される場合があります。ソニー損保の解説によると、火災保険の基本補償には「火災・落雷・破裂・爆発」が含まれており、雷サージで壊れたPCやルーターの修理費用・買い替え費用が保険金の対象になるケースが多いとのこと。

ただし注意点がひとつ。保険で補償されるのはハードウェアの修理費や交換費用であって、パソコンに保存していたデータやソフトウェアは対象外です。仕事のファイルや家族の写真が飛んでも、保険では取り戻せない。PCショップ時代にも「雷で壊れたPCのデータを何とかしてほしい」という相談は何度か受けましたが、ストレージが物理的に生きていればデータ救出できることもあるものの、保証はできない。だからこそ日頃のバックアップが一番の保険になります。

落雷で機器が壊れた場合は、壊れた機器の写真を撮っておき、修理見積書や購入時のレシートを用意してから保険会社に連絡するとスムーズです。

FAQ

雷ガード付き電源タップは何年で交換すべき?

作動確認ランプが点灯している限り保護機能は生きていますが、バリスタは経年劣化もするため、一般的には3〜5年での交換が推奨されています。ランプが消灯したらすぐに交換してください。

ノートパソコンも雷サージで壊れる?

壊れます。ACアダプターを経由してコンセントに繋がっている以上、デスクトップと同じリスクがあります。バッテリー駆動中でコンセントに挿していなければサージの心配はありませんが、有線LANを挿している場合はそちらからサージが入る可能性があります。

Wi-Fi接続ならLANケーブルのサージは関係ない?

パソコンとルーターの間がWi-Fiなら、パソコン側にLANケーブル経由のサージが入ることはありません。ただし、ルーター自体はモデムや壁のLANポートと有線で繋がっているため、ルーターが壊れるリスクは残ります。

UPS(無停電電源装置)があれば雷対策は万全?

UPSには停電時にPCを安全にシャットダウンするための時間を稼ぐ役割がありますが、雷サージの吸収能力は製品によって大きく異なります。サージ保護機能付きのUPSであれば電源タップよりは強力ですが、直撃雷級のサージは吸収しきれない場合もあるため、過信は禁物です。

参考文献